ごきげんよう

北センチネル島には、21世紀・GPSの時代に、地球上で唯一「国家も文明も外部接触」を受けない民族が住んでいます。インド領という扱いになってはいますが、インド政府さえ「接触禁止」「入ってはいけない」と法律で定め、上陸・接近を止めています。外から近づくことは“違法”なのです。その事を法律で守られている部族であります。そしてそれは、センチネル民族が“危険だから”ではなく、免疫のない社会であるので免疫を持たないまま暮らしている可能性が大だからです。文明側が運ぶ細菌やウイルスの方が、センチネル族を大量死させるリスクがあるから「接触は危険」と捉えられています。〝文明側が近づけば相手は絶滅する〟だから「そっとしておく」ということでしょうね。彼ら部族には文明は毒物のようにも作用するのかもしれません。私たちが「善意」であっても、我々と接触しただけで彼らは絶滅しうる〜歴史がそれを証明しています。そう言えば、コロンブス以前のアメリカ大陸で、最も効率よく先住民を殺したのは剣ではなく「病原体」でした。
この世界には、今現在もむやみに触れてはならない人々が存在し、そしてきっぱり「触れない」と決めることも、当然の真の倫理かもしれません。
センチネル族の推定人口は、50〜200人ほどと言われます(あくまでも推定です)。地球上のたった一つの島に、しかも、わずかな人数で、島の静寂の中で生き続け、数万年の独自文化をつないで来ています。
2004年のスマトラ沖地震のとき、彼らは津波の前に高地へと移動しました。レーダーでもAIでもなく、風と波と鳥の騒ぎから地震を察知し高台避難の行動を取ったのです。私達はアラートなど「緊急速報」的な『観測』から知らせを受けて、次に行動に移しますが、彼等はあらゆる自然現象を「身体」に書き込んだまま暮らし、連綿と命と暮らしを続けていると考えられます。未開という言葉を使うのは、私達こちら側の未熟さかもしれません。
文明は救いだし、私もその利便から離れられません。文明を否定などしておりません、寧ろ、大いに便利だ便利だと使いこなして暮らしをシンプルにしております。ただ同時に、ややもすれば、文明は他者を「同じにしよう、人類は同じだ」と圧をかける衝動的な性質も持ちます。北センチネル島の存在は、文明全体に対する“校正”のようにも感じました。『世界に正解は一つだ』という思考ほど危険なものは無いとも気づきました。『正解不在』という視点を、文明の波に乗っている我々は、どこかで失ってしまっていたのかもしれません。
彼らが存在しているという一点だけ取り上げても、世界の複数性・複雑性が守られていたり、確かに文明の進展にも付いていく必要性が高まったりしている事も明確に分かります。しかしながら、そうあっても、この時代にまだ、触れてはならないヒト・モノ・コトが静かに残っているという事は、文明化の波に飲まれすぎない様に、私達が時代の迷子にならない様に、私達の心にブレーキを持つ事や心の暴走をしない事等等に気付くきっかけを与えてくれているとも受け取りました。
2025.11.8 by tayu